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2001年5月18日あまりにも晴れ渡ったその日、東京都代々木公園野外ステージにそれは在った。
朝9時、会場に到着。何の手も加えられていない石の舞台は、なんだかただの門のように見える。
空はやけに高く全部の音が吸い込まれるようで、辺りは妙な静けさに包まれていた。
ステージをつくる人達の大きな声も変に遠くで鳴っている。逆にその静けさがこれから起こる大事件を予感させ、
体のずっと奥の方から緊張感を覚まさせる。その静かな静かな緊張感の中、
舞台には照明が取り付けられスピーカーが置かれ音楽をつくるためのステージが整えられていく。
お昼を過ぎると今日の日を待ちわびたみんながぽつりぽつりと現れはじめた。
誰からとなく言葉を交わし合うその顔は期待でぴかぴかと輝いている。ステージ同様こちらも準備は順調だ。
午後4時。集まったみんなの列は早くも3000人を超え、
そのみんなはもちろんステージも高い空も吹く風もそこら一帯の全てが期待と興奮を抱えて一丸となり、
大きな大きな塊となって、抜けるような空のもとそこにあった。
ステージ前は柵の入り口が開かれるとあっという間に一杯になり、
残念ながら入れなかった人も思い思いの場所に陣を取る。期待と興奮の塊はいよいよ膨らみ、
今にもパチンとなりそうに熱を上げていく。
心地良いロックナンバーが流れ、心地良い風が渡った。解放感は一気に高まり、ATアオキ氏の前説に続き
GOING STEADYミネタカズノブのバンド紹介。そしてついに、ついに“東京初期衝動”のライブは幕を開けた。
1番手LINK。堰を切って溢れ出した興奮は、眩しいばかりに辺りに飛び散った。軽快なパンクロックが、
まさに風に乗って広がる。THE JAM、THE CLASHのカバー曲、新曲を含む全9曲をほとんどノンストップで演奏。
その美しいメロディはみんなの心ごと、本当に空に舞い上がったように見えた。
そして2番目マグネットコーティング。破壊力満点なロックを繰り出す。その爆発的な音は、
LINKが駆け抜けたその場所を、地面からごっとりひっくり返した。かき混ぜられたみんなはもうぐちゃぐちゃで、
両手を振り上げダイブを繰り返し大暴れするしかない。大興奮の渦の中、7曲を奏でた。
いよいよ。いよいよ次は、GOING STEADY。 GOING STEADYの登場を待ちながら、みんなの熱は均一に、
そして心は一つになり始める。そうやってぴんと張った空気の中で早くも胸が詰まる。
急いた気持ちを持て余すようにゴイステコールが湧き上がる。
「ゴイステ!!ゴイステ!!」の声の中、ついに登場、GOING STEADYだ。
静かに入った一つ目のその音だけで、全身がびりびりする。緊張を超えた緊張が、
興奮の一歩手前でびりびりしている。1曲目“アホンダラ行進曲”。ここは壁も天井も無い野外のステージ。
GOING STEADYの発する力は空を通して、いかにも世界中に続くように思えた。そして会場のみんなから、
空から風から草から全部から、同じだけの大きさの受け取る力が発されていた。その力と力は重なって、
みなぎる興奮に変わる。GOING STEADYのライブにはいつも爽快な興奮がある。しかも今日、ここには限り
なく広い空があり、隔てるものは何も無い。興奮はどこまでも、どこまでも広がる。
けれど膨らんだ期待は大き過ぎたのか、前へつめ掛けた人であちこちで人垣が崩れた。
1曲が終わったところでライブは一旦中断。仕切り直しで始まった2曲目だったが、後方の柵が壊れ、
曲の途中で再び中断。再開のための作業中、心配そうに待つみんなを前にミネタは呼びかけた。
「最後までやりたいんですよ。やるんですよ。、、、」。ライブというのは生のリアルな事件なのだ。
全員でつくらなければならないものだ。全員で成功を、つくらなければならないのだ。
それを改めて確認した後、なんとかライブは再開。
2曲目“東京少年”、3曲目“もしも君が泣くならば”。中断の後も熱は下がることなくライブは続く。
「君と僕は永遠に、、、」「君と僕は永遠に、なんて。永遠なんて無いのわかってるんだ。でも、
でもなんか歌いたいんですよ、ほんとに」。「君と僕は永遠に、手と手つなぎどこまでも」“YOU & I”。
「You&I, now and forever… You&I, now and forever …」。そして出身地山形での高校時代の話から
“銀河鉄道の夜”。切なくノスタルジックなメロディで心の奥を強く揺さぶる。続けて一気に“GO FOR IT”、
突然の音とテンションの暴発に興奮はもはや最高潮に達する。叫びながら、頭を振りながら、
私たちはだんだんと身軽になっていく。一人で抱えていて、ずーっと抱えていて、気持ち悪いくらい苛立っていた。
すごく深刻に見えたそういう荷物を簡単に捨て去らせる興奮がそこにはあった。
そこで再び泣きのバラード。懐かしい“THE BRIDGE”。生々しくてひりひりする。
GOING STEADYは私たちに何をしてくれる訳ではない。GOING STEADYは自分自身の大きさで自分自身のやり方で、
全身全霊でGOING STEADYであるだけだ。情けなくてださい事を言ったり、
勢いにまみれて大転倒寸前の姿勢で演奏をする。あまりにも剥き出しなGOING STEADYのその姿は、
私たち自身の剥き出しな心と姿をも同時に突き付ける。GOING STEADYのライブは、
心に優しくて深い傷を切りつけるのだ。それは時々ひどく苦しくて、そしてこの上なく心強い。
「夢なんて叶わない。夢なんて叶わないのを知っている。でもよ、
自分がどんぐらい大変かってのは自分しか知らねえから、ね。今日は歌いますよ」「日本の真中で、世界の真中で。
歌おうよ。歌いましょう。“星に願いを”」。もの凄い大合唱が生まれた。拳を高く上げみんなが心から歌っていた。
まさに世界の真中から世界中に届く歌声であった。そして“BABY BABY”と続き、いよいよライブに終わりが近付く。
最後の曲は“STAND BY ME”。辺り一面は、興奮の熱と切なくも優しい温かさで、強く一つだった。
それぞれの孤独を持ってなお、強く一つだった。
メンバーが引き上げてしまってもこんなに熱くなってしまった気持ちを抱えてすぐに終われるはずがない。
一斉にアンコールを求める歓声が上がる。収まる気配もなく歓声は続く。そしてGOING STEADY再び登場。
悲鳴にも似たひときわ大きな歓声が起こる。「いつの日にか僕らが心から笑えますように、、、なんて言ってるけどよ。
面白くない毎日が続くのはたぶん変わんないですよ。ただ、ただ、ライブとかやってって、
みんなでこうやって笑い合えればいいなと思うわけです」「いつの日にか僕らが。今、僕らが。
心から笑えますように」。そして本当に最後の曲、“DON’T TRUST OVER THIRTY”。いよいよ終わってしまう。
ぎりぎりの気持ちで、やはり大きな合唱となった。暗く冷たくなってきた空に、熱いその声は響いた。
いつか噛んだ悔しさだとか、初めて感じた興奮だとか、くじけかけてた情熱だとか、
いろんなものがこみ上げて、胸がちぎれそうだった。
「音楽に、音楽に、ありがとうどうも!!!」最後にミネタはそう叫んだ。
実に、その日そこには本当に素晴らしい“音楽”が在った。愛すべき音楽と、音楽を愛する気持ちが在った。
後も先も無い今だけの“今”が閃光のような瞬間としてそこに在った。そして、確かにそれを目撃した私たちが在った。
(テラダメグミ)
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