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【UKP OFFICIAL DISC REVIEW】五十嵐隆/『生還』 live at NHKホール 2013/05/08

2008年3月1日、日本武道館でのライヴを最後にsyrup16gが解散してから5年とちょっと経った──そしてsyrup16g解散の半年後ソロのようなバンドのようなプロジェクト「犬が吠える by 五十嵐隆」を立ち上げるも、ライヴのみで音源はリリースしないまま、半年後(2009年4月)に解散を発表してから4年が経った頃。2013年5月8日に突如NHKホールで行われた、五十嵐隆のライヴを収録したのが、このDVD/Blu-rayである。『生還』というのは、そのライヴのタイトルそのまま。事前に発表されたのはそのタイトルと、五十嵐隆名義(つまりソロ名義)でライヴをやる、ということだけであり、syrup16gの曲をやるのか、犬が吠えるの曲をやるのか、それ以外の新曲はあるのか、バックのメンバーは誰なのか、などといった事前情報は一切出なかった。ファンにもだが、音楽業界内でも知らされなかった。出回ったのは「それ以降の活動は未定です」というアナウンスだけ。

なので、当日、渋谷・NHKホールのステージに、五十嵐と共にステージに現れたドラマーとベーシストがsyrup16gの中畑大樹とキタダマキだとわかった時には「うわ!」ってなったが、同時に「やはり」とも思った。なぜそう思ったのかは、自分でもよくわからないが。で、そのライヴで、syrup16gの曲を14曲やったのは、この3人なんだから当然だろうし、犬が吠えるの曲を1曲やったのも、まあ納得した。
ただし。驚いたのは、新曲を5曲もやったことだ。しかも、どれもいい。得意技や手クセの範疇で作られた感じではなく、新しい何かを生み出そうという意志が見える曲だった。しかも過去にお蔵入りになっていた曲とかではなく、どれもこのライブのために書き下ろされた曲だという。
曲、書けるんじゃん、五十嵐。しかもいい曲を。で、それをこうして人前でやれるんじゃん。ということに、びっくりした。うれしかった。というか、予想外だった。

というのは、これだけ沈黙しているということは、曲がもう書けなくなっているか、書けるんだけど人前で発表したくなくなっているかのどっちかなのではないか、と僕は思っていたからだ。メジャーで活動していた間のほとんどの時期、syrup16gは、とんでもないハイペースで曲を作っては発表してきたが(アルバムの枚数も、アルバムに入っている曲数もそうだ)、聴けば明らかなとおり、どれも決してホイホイできるような曲ではない。心身を(特に心を)削ってしぼり出すように書き上げられ、アレンジされてきた曲だと思う。「もうこれ以上できません」っていうことになり、それが数年間にわたっても不思議はない。それくらいの濃度なので、どの曲を聴いても、どのアルバムを聴いても。
それから、「人前で発表したくなくなっている」という推測に関してだ。昔、そのアーティストの半生すべてを訊く「2万字インタヴュー」というのを五十嵐に行ったことがあるのだが、その時の印象だと、彼はそもそも曲や歌詞を作ったりアレンジしたりすることは好きだが、まず人前に立ちたい、人前で歌いたい、というタイプではない感じだった。裏方として音楽に関わっていこうと、高校卒業後はPAの専門学校に行ったという。自分の曲を表現する手段としてライヴがあり、それはもちろん彼にとって幸せな場ではあっただろうが(前にそんなことも言っていた)、「芸人は3日やったらもうやめられない」みたいな、とにかくステージに立ちたい人ではない、ということだ。華やかさやきらびやかさと同時に己に襲いかかってくる、人前に立つことの重圧やストレスがイヤになった、とか。ありそうだ。

なので。僕は正直、もうあきらめていた。犬が吠えるが解散して2年くらい経った頃から。まあ、しょうがないか。どっかで生きててくれればそれでいいや。解散ライヴで五十嵐が言ったように、残してくれた曲がいっぱいあるから、それを聴いてるよ。というつもりだった。
重ねて言うが、このライヴがどのような経緯で行われることになったのか、僕は知らない。知らないが、彼と彼の音楽を愛する元スタッフたちが、せめてライヴくらいやろうよ、やってもいいじゃん、ツアーはしんどくても1本くらいならできるでしょ、というふうに彼を説得したのではないか、と勝手に予想している。だから、ちゃんと生きていて人前で歌を歌ったりくらいはできるコンディションである、そのことを確認できれば充分です、みたいな気持ちで、足を運んだのだった。

そしたら新曲が5曲も。加えて、syrup16gを手伝う前から有名だったキタダマキの腕が確かなことには驚かないが、今やサポート・ドラマーとしてひっぱりだこになっている中畑大樹のドラム、すさまじい。いや、しょっちゅう観てるんだけど、今のこの男がsyrupに戻ってくると、こんなにもすげえことになるのか。……ってこれ、syrupじゃないや、五十嵐のソロなんだった。でも、syrupの3人がsyrupの曲をやっていて、それ五十嵐のソロなのか? ってことは、今日ここで初めて聴く新しい曲たちは、五十嵐の新曲なのか? syrupの新曲なのか?
もっともブランクを感じたのは、やはり五十嵐のヴォーカルだが(あたりまえだが)、ライヴ中盤あたりから人前ででかい声で歌う時のカンどころを身体が思い出したのか、尻上がりによくなっていった。ライヴという場、その楽しみ方、コミュニケーションの取り方(ほぼしゃべらないけど)などを、だんだんつかんでいっている感じだった。そして、4年も雲隠れしていたのに、自分のライヴを観に、こんなに大勢の人が集まってくれている、という事実がいったいどういうことなのか、それを徐々に理解し、感極まっているようにも見えた(実際はこんな人数じゃないんだけど。もっととんでもない数の人がチケット買えなかったんだけど)。
とか、観ながら思っていたら、あっという間に終わってしまった。

あれから1年が経つが、五十嵐隆、その3ヵ月後に新木場スタジオコーストで行われた所属レーベルUK.プロジェクトの夏フェス「UKFC on the Road 2013」に登場し、弾き語りでライヴをやって以来、一切音沙汰がない。『生還』と謳っていたが、その2回のライヴ、正しくは『一時帰還』だったのかも、とも思う。思うがしかし、もう二度とライヴで聴けると思わなかった曲たちをライヴで聴けたわけだし、もう二度と生まれないと思っていた五十嵐隆の(なのか「syrup16gの」なのかわからないが)新しい曲たちを聴くことができたわけだ。唯一、その曲たちを作品として手元にキープしておくすべがないのが残念だったが、このたびこうしてライヴDVD/Blu-rayに収められた。充分じゃないか?

まあ、生きてりゃいいよ、五十嵐くん。もうやる気にならないかもしれないけど、またやる気になるかもしれないし。[兵庫慎司]

付記
と書いて締めくくろうとしたのだが、これ、その彼の所属レーベルの公式サイトに、スタッフから依頼を受けて書いてるんだから、「で、どうなんすか実際?」ときいてみたって別にいいよね。
と思い、電話してみた。

2013年5月8日に、あの3人でライヴをやった感触がよかったので、あの日をきっかけに五十嵐隆がやる気モードに入っていますので、今後の活動にご期待ください。

と、書いていいそうです。
まじ? ほんとか?
うれしいが、不安だ。くれぐれも無理しないように。できるようになったら、でいいからね。幸か不幸か、こっちはなかなか出ないアルバムを9年くらい待ったりすることに、慣れているので。

それからもうひとつ。この『生還』DVD/Blu-ray、メニュー画面には出てこない、おまけ映像が入っています。まだ発見できていない方、あちこち捜してみてください。

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