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livereport

【LIVE REPORT】6/30(日) tetoツアー2019 正義売買 -seigi bye bye-@TSUTAYA O-EAST

tetoにとって初のワンマンツアー「始発」が行われたのは去年7月のこと。600人がぎゅうぎゅうになっていたWWW Xの景色が一年前かと驚くのは、そこからの飛躍が凄まじかったからだ。ファースト・アルバム「手」の全国ツアーは軒並みソールドアウトし、最終日のリキッドルームは満員御礼。今年に入ればセカンド・シングル「正義ごっこ」が登場し、そのツアーファイナルはTSUTAYA O-EAST、1300人収容の会場が超満員である。目につくのはハタチ前後とおぼしき若いファン。初めてのライヴハウス体験者もいるかもしれない。暗転した瞬間の歓声には、期待だけではない、驚きと興奮のニュアンスがあった。

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実際、たまげた人もいるだろう。ライヴは「高層ビルと人工衛星」から始まるが、音源とはまるで違う。おもむろにマイクスタンドを振り上げた小池貞利がサビの歌詞を叫ぶところから始まり、「刻め! 俺に刻め!」と大絶叫。そこから始まるバンドの演奏も1,5倍くらい高速で、ノイズなら2倍増しである。一瞬たりとも動きを止めず、間奏に入るとすかさずフロアに飛び込む小池からは、嬉しさというよりも「足りない! 足りない!」みたいな焦燥感が溢れている。とにかくハードな曲が続く前半、一曲が終わるごとにステージ上にうずくまっては、またすぐ暴れだす小池から目が離せない。初めて見る者が、これがパンクか、と度肝を抜かれたとしても不思議はない。

 

もちろん長らくパンクシーンを見ていれば、これは特別新しいことではなく、むしろ過去の先輩たちの影響を引き継いだものだとわかる。彼らが敬愛する銀杏BOYZは4人編成時代のライブで過剰に暴れていたし、高速マシンガンみたいなビートと早口言葉の曲も、ハードコア/ファストコア界隈ではよくあること。ただ威圧的で怖いというより、全体にガチャガチャしていて、どこかブッ壊れていて、そこも含めてチャーミング。90年代〜00年代前半のライブハウスでよく見た光景だが、考えてみれば今、そんなバンドはほとんどいない。消えた亡霊たちの思いを引き受けているところもあるだろう。小池がtetoを始めたのは26歳の時だという事実を改めて考える。無知ゆえに無敵の10代には出せない歴史を、この人は背負っている。

逃しちゃった、無くしちゃった、と繰り返される「散々愛燦燦」。いつの間にか消えてしまうものを抱きしめるような歌で、今書いたことをしみじみと考えてしまうのだが、アンダーグラウンドのバンドにはなかったポップさはtetoだけの強みだ。フォーキーで温かく、童謡くらいに覚えやすいメロディ。ファンは当然大合唱。歌詞はほとんど私小説なのに、みんなのうた、みたいな空気が広がっていく。追いつけないような早口の曲でも、サビだけは無垢でシンプル。全員が拳を突き上げ、ただ全力で歌っている。とんでもない一体感だ。

 

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歌詞は私小説と書いたが、小池は本当に半径1メートルのことしか歌わない。時事ネタに触れて全部どうでもいいと一蹴し、「それより俺が朝起きれないとか、人と上手く喋れないことのほうがよっぽど大きな事件だ!」と叫ぶシーンがあった。褒められた話ではないが、でも、自分のことでいっぱいいっぱいなのはとてもリアルだなと思う。カッコよく俺に付いてこいと扇動せず、俺に刻め、と叫ぶのも同じこと。率先して己の満たされなさを吐き出す彼は、それぞれに「上手くできないこと」や「なんとかしたいこと」があると知っていて、全部ここに置いていけと歌うのだ。その捌け口にtetoがなる、俺が飲み込む、という覚悟。それが、これだけの若い客層を惹きつけている。

 

最初からフルスイングで暴れる小池を見て、ここでなら自分を解放できると確信するのだろう。中盤の「夢見心地で」の演奏中、何度かダイブに挑戦しては失敗していた女の子がようやく浮上に成功、〈あなたがまだあなたでいるから、わたしもわたしでいられる〉と歌詞のセリフに合わせて笑顔で転がっていくシーンがとても印象的だった。この瞬間、この歌は間違いなく真実。もちろん一瞬のカタルシス、一夜限りで消えてしまう幻想かもしれないが、ここに集まった1300人にとっては、確かに世間のニュースよりよっぽど大事件だ。

 

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また、フロアに飛び込む勇気もなく立ち尽くしているのは2階スタンドの観客だが、その子たちがいよいよ拳を上げて歌いだしたのは「あのトワイライト」だった。決して大声じゃない。控えめに、でも本当に嬉しそうに、〈何度も何度でも輝いて生きてたいよ〉と歌っている少女の顔は輝いて見えた。tetoと同じ気持ちを共有し、同じ時間を味わっている。これは奇跡みたいな瞬間だなぁと改めて思う。そう思わせるだけのライヴである。

 

バンドそのものの成長も大きい。一年前はもっと粗雑な印象だったが、演奏も驚くほ引き締まってきた。山崎のギターソロが映えた「コーンポタージュ」など、それぞれ存在感を発揮するシーンが多い。昨年一年間をほぼツアーに費やしてきたバンドだから、現場で直に鍛えられてきたのだろう。ファンの顔が、フロアの熱が、演奏力に跳ね返っている。〈今まで出会えた人達へ〉の思いを綴った「拝啓」でライブはひとつのハイライトを迎えるが、気づけば小池は「足りない!」とはまったく違う様子でジャンプしていた。おそらく、簡単に口にはしないが、「楽しい」とか「幸せ」とか「たまらない」という感情だ。

 

本編ラスト2曲、予定にはなかったアコースティックギターを手に始まったのは「時代」。ニューシングルの中でも特に柔らかい一曲で、〈あなたと居た事実が真実が何より美しい〉という言葉が、噛みしめるように歌われる。なんの説明もないが、これがこの場所の歌、このライヴの歌であることは全員に伝わったはずだ。そこから「光るまち」に繋がる流れもまた最高だった。群馬・高崎で見た友達のライブの記憶を綴った曲だが、「今日はここ渋谷が『光るまち』だ」とMCにも照れがない。ゆっくりと記憶を反芻するように歌い上げたラストシーン。ステージ全体が発光しているような照明が、キラキラと美しかった。

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アンコールはお馴染み福田のトークから始まり、ようやくメンバーが揃ったところで15曲入りのセカンド・アルバムが秋に発売、その後は初の全国47都道府県ツアーが始まることが発表された。普通の対バンもあるにはあるが、「高校生バンドやコビーバンド、何でもいい、対バンを一般公募するぞ」という発言もあり、次なるツアーがさらに面白いものになることを予感させる。再びの大合唱となった「手」、そして「新しい風」でライヴは終了。ハンドマイクでステージ上を駆け回っていた小池がドラムセットを福田から奪って叩き出し、交代するように福田が走ってフロアへダイヴ。それはもう、はちきれんばかりの笑顔だった。

 

これで完全撤収……となるはずが、小池はすぐさまステージに戻ってくる。逆ギレのように「どうせもっとやれとか言うんだろ?」「だったらやる、っていうかそこで歌う。お前ら場所空けろ!」と満員のフロアを指差す。いざ飛び込んだそこは異様な満員電車状態なので、小池はギターを弾くこともままならず、結局はファンと一緒にアカペラで「My I My」を唱和することになるのだが、いまいちカッコつかないこのエンディングもなんだかtetoらしいものだった。カッコつかなくてもOK。簡単に前を向けなくてもOK。ドキドキできるこの瞬間があれば明日は生きていけるよな。小池だけではない、彼を取り囲む誰も彼もが、そんなメッセージを体中から発していた。

 

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ライター:石井恵梨子

カメラマン:馬込将充

 

▶︎teto official site:http://te-to.net

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