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Helsinki Lambda Club 『「Eleven plus two / Twelve plus one」release “おかわり” tour 〜皆さん、お変わりないですか?〜』 2021年7月20日@新木場USEN STUDIO COAST

Helsinki Lambda Club が2020年11月にリリースした2ndアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』を携えた東名阪ツアーの“おかわり編”として、今年5月から全国10カ所を回ってきた『「Eleven plus two / Twelve plus one」release “おかわり” tour 〜皆さん、お変わりないですか?〜』のファイナル公演が、7月20日(火)に新木場USEN STUDIO COASTで開催された。(※沖縄・Output公演は9月17日に延期)

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本公演を“ついに!”と心待ちにしていたファンが多い理由のひとつは、彼らにとって過去最大規模の会場でのワンマンライヴであること。そして、2014年に開催されたUK.PROJECT主催のオーディション『Evolution! Generation! Situation!』にて最優秀アーティストに選ばれ、同会場で行なわれた『UKFC on the Road 2014 新木場STUDIO COAST』に初出演し、CDデビューを果たした背景があるのも大きい。

『UKFC』をはじめ、Helsinki Lambda Club がこれまで出演してきた新木場USEN STUDIO COASTでのライヴは、会場の下手に設置されたサブステージが多かったが、今回はワンマンということで、メインステージに堂々とアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』のフラッグを掲げた。ジャケットが“外から見た自分”と“内側から見た自分”が描かれた多角的なデザインになっているだけに、周りに吊るされた四角いオブジェも鏡や額縁を彷彿させる。どれだけバンドの歩みが詰まった感慨深い公演であっても、『Eleven plus two / Twelve plus one』という自信作が生まれた誇りがど真ん中にあるステージであることは、アルバムをフィーチャーしたセットからも伝わってきた。

そんな最新アルバムに収録された「Mind The Gap」をSEにメンバーが登場。民族楽器や人の声などがサンプリングされた、ノリが良くちょっと謎めいたインスト曲だが、タイトルはロンドンの地下鉄で流れる“電車とフォームの隙間に注意してください”というアナウンスを意味するもので、これからどこかに出発するようなワクワク感が掻き立てられる。メンバーも観客も気合い十分な様子だが、1曲目にチョイスされたのはスローな「引っ越し」(2018年発表ミニアルバム『Tourist』収録)。最初はあえて少しハズしてきたのかと思ったが、聴き終えると他のどの曲よりもぴったりな選曲だった。橋本 薫(Vo&Gu)の“今日はここがみんなの居場所になると思います”というひと言然り、力が抜けていくような緩やかなメロディーに、《鏡が全部割れたなら 作り笑いはできないし/ここで息ができないなら 火星にでも引っ越そうか》とどこかへ導くような歌詞、円を描くようにして会場全体を照らした照明も含めて、安らぐ空間が出来上がる。

続く「しゃれこうべ しゃれこうべ」(2016年発表のシングル「友達にもどろう」収録)のギターリフにも陶然とし、《地獄でワルツを踊りましょう》というフレーズは、コロナ禍で開催された本公演を表しているようにも感じた。生きにくい気持ちや釈然としない状況をまずは受け入れ、その上でどこか遠い星に引っ越すのであり、例え地獄の中であっても楽しむ。もともとは愛を歌った2曲だと思うが、この日のセットリストで頭に持ってきたことにより、Helsinki Lambda Clubがどんなスタンスでツアーを回ってきたのかが受け取れる、とても意味のある流れだった。

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そこから“まぁ、とにかく今日は楽しもう”と言わんばかりに、パンキッシュな「ミツビシ・マキアート」と「Skin」(2018年発表アルバム『ME to ME』収録)を続けて投下。シンプルなコード進行でガシガシ駆け上がっていく。セッション的に始まった「メサイアのビーチ」ではサイケデリックロックなアレンジに稲葉航大(Ba)の野性的な雄叫びがディレイで響きわたるという異様な雰囲気の中、徐々にイントロが顔を出していく構成にも思わず唸った。「ロックンロール・プランクスター」(『Tourist』収録)ではサビよりも中毒性あふれるAメロの《俺は自由なゴミ 風に吹かれるビニール》のほうがオーディエンスの拳が上がるし、このバンドが持つキャッチーさと変態性は強烈な個性だ。

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そんなことを思った矢先、会場の照明が消え、前回のツアー“MIND THE GAP!!”でも茶番劇を繰り広げた「Sabai」へ。稲葉が作詞作曲した同曲はアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』のコンセプトにあった“バンドの過去・未来・現在”のうち“未来”に位置する曲で、“橋本が脱退している期間に作られた曲”というテーマがある。それがゆえに、この曲を演奏する時には橋本がステージから去るのがお決まりだ。今回の劇は“宇宙船を操縦している稲葉が船のトラブルによってタイムスリップしてしまった”という設定。未知の星に辿り着いてしまった稲葉が(宇宙服に着替えて登場)、戸惑いながらも“仲間がいれば大丈夫!”と宣言すると、never young beachのベーシスト・巽 啓伍をはじめ、写真家・マスダレンゾなど“Helsinki Lambda Clubの仲間たち”がギター、ベース、キーボードやパーカッションで参加しながら、稲葉はサックス&ヴォーカルとして「Sabai」を必死に歌い上げる。どう見ても可笑しな状況ではあるが、《いつもびびりすぎるなよ/どうせ死ぬなら胸はろう》と歌う、ヘルシンキの中で一番真っ直ぐなメッセージが込められた同曲だからこそ、少し感動してしまうくらいの一体感と眩しさがあった。ライヴでは茶番劇がお決まりだが、実際に苦しい境地に立たされた時には、根拠がなくとも救い出してくれそうなパワーをまとっている。

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また、本ツアーでは各地で限定の曲を演奏しており、この東京公演では「NIGHT MARKET」(2015年発表のミニアルバム『olutta』収録)を披露。熊谷太起のギターが孤独と夜空の美しさを会場に温かく広げ、Helsinki Lambda Clubはスケール感のあるシンプルなアプローチの曲もじっくりと味わえることを実感した。

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だが、まだまだバンドの個性が色濃く出たこってりなナンバーも控えており、中でも「IKEA」は転調しまくる曲展開や橋本のラップパート、心地良さと不安感が入り混じった熊谷のギターサウンド、さらにピンクと緑のケミカルな照明も相まってまさにカオス。「Happy Blue Monday」の前にはインスト曲「Mother Helper(Instrumental)」を挟み、ファンキーな「PIZZASHAKE」では熊谷がシンセを弾く場面があったりと、音的にも視界的もオーディエンスと一体して“ライヴ”を楽しんでいる様子で、橋本がこぼした“みんなの顔が見られて、生きてるって感じがする”という言葉も印象深かった。「眠ったふりして」の演奏前には“コミュニケーションって疲れると楽なほうを選んでしまうけど、僕は痛みも含めて、人生を余すことなく過ごしたい”と話す場面もあったが、それこそがHelsinki Lambda Clubを表す言葉だったように思う。どれだけ小気味良い楽曲であっても歌詞の奥には届かぬ想いがあったり、ロマンチックなバラード「眠ったふりして」も恋人同士の間にできた距離を感じる。楽曲をじっくりと堪能するムードが広がっていたからなのか、オーディエンスが手をあげて楽しんでいる光景をよく見た「Good News Is Bad News」で、ゆったりと身体を揺らして楽しんでいる人が多かったのも新鮮だった。

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そして、ライヴもそろそろ終盤に差し掛かかったところで「Shrimp Salad Sandwich」。“立食パーティー”“新宿御苑”“選挙”という単語が並ぶこの曲を《今 町では乾いた銃声が/響いたが 選挙の話に/夢中で誰も“俺の声に”気付かない》《“東京五輪に夢中で”誰も“君の姿に”気付かない》と橋本が歌詞を変えて弾き語り、会場からは拍手が起きた。それ以上は何を語るわけでもなく、コロナ禍で押し寄せた怒りもアーティストとして音楽に残す生き様を目の当たりにする。照明はステージだけをうすぼんやりと照らし、最大キャパでのワンマンが叶ったという喜びとはかけ離れた演出で、《今 窓の外では流星が/燃え落ちたがシャンデリアの/光で誰も気付かない》という歌詞ではミラーボールをギラギラに光らせ、この日のライヴを“良かった”だけでは終わらせられない、悔しい想いがあることを痛感した。

本編の最後を飾ったのは「午時葵」。リズミカルで非現実感漂う壮大さがあるが、これもまた橋本の死生観が表れたパーソナルな曲だ。ラストに持ってくる音楽的な気持ち良さは言わずもがな、シリアスと多幸感が入り混じった妙が味わい深く、同時に最新アルバムがどれだけの名盤であるかが染み渡る。本公演が実現するまでの想いだって、話そうと思えばいくらでも話せたはずだが、ライヴの主役は自分たちではなく、『Eleven plus two / Twelve plus one』並びにHelsinki Lambda Clubの楽曲そのもの。彼らが音楽的挑戦を重ねる中でぶれずにあるのは、バンドマンであり、ミュージシャンであることへの自負なのだと証明したステージだった。

アンコールでは3曲入り配信シングル「Inception (of)」を9月29日(水)にリリースすることを発表。『Eleven plus two / Twelve plus one』に収録している3曲をピックアップし、ゲストに迎えたにPEAVIS、CHAIのマナ・カナ、どんぐりず、Frascoとともに再構築した作品とのこと。その中から「GNIBNII(feat. PEAVIS, CHAI)」をPEAVISとマナ・カナをステージに招き、ライヴで初披露した。サンプリングではなく、完全に解体して作っているからこそ、原曲の印象とはまったく違うものになっており、マナ・カナの柔らかでファンシーなコーラスと、PEAVISのラップがキリリとメリハリをつける、メロウで芳醇な一曲。まだまだ広がっていく『Eleven plus two / Twelve plus one』の可能性に期待が募る。

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そこからはライヴの定番であるアッパーなロック曲「TVHBD」(「友達にもどろう」収録)、「宵山ミラーボール」(2017年発表のシングル「split」収録)をドカン!と鳴らし、軽やかな「テラー・トワイライト」(『olutta』収録)であと腐れなくサクッと締めた。ダブルアンコールで橋本が弾き語った「チョコレィト」(『olutta』収録)が最後の曲だったが、同曲を含めてUK.PROJECTからのデビュー初期の曲も多くセットリストに組まれ、最新アルバムのコンセプトにあった“バンドの過去・未来・現在”をリアルに体現したような、時の流れと、今やりたいこと、その先に待っている進化の気配を感じるライヴだった。

text by 千々和香苗(music UP’s/OKMusic)
写真:マスダレンゾ

【セットリスト】
1.引っ越し
2.しゃれこうべ しゃれこうべ
3.ミツビシ・マキアート
4.Skin
5.Time,Time,Time
6.メサイアのビーチ
7.ロックンロール・プランクスター
8.Sabai
9.NIGHT MARKET
10.IKEA
11.Mother Helper(Instrumental)
12.Happy Blue Monday
13.PIZZASHAKE
14.眠ったふりして
15.Good News Is Bad News
16.マリーのドレス
17.Shrimp Salad Sandwich
18.午時葵
<ENCORE 1>
1.GNIBNⅡ(feat. PEAVIS, CHAI)
2.TVHBD
3.宵山ミラーボール
4.テラー・トワイライト
<ENCORE 2>
チョコレィト

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