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Helsinki Lambda Club「月刊エスケープ」release tour “冬将軍からのエスケープ” 東京・恵比寿LIQUIDROOM公演ライブレポート

  

2025.01.29
Helsinki Lambda Club「月刊エスケープ」release tour “冬将軍からのエスケープ”
東京・恵比寿LIQUIDROOM公演ライブレポート

文:青木優
写真:マスダレンゾ

今のヘルシンキはどこにだって飛べる! そんな高揚感を目いっぱい体感した夜だった。

「ヘルシンキラムダクラブです! よろしく!」

橋本薫がそう言ったのは、1曲目の「引っ越し」が終わったところ。「冬将軍からのエスケープ」と題された全国ツアーのオープニングに選ばれたのは2018年発表のアルバム『Tourist』からの曲だった。海の底や火星に引っ越そうと唄うこの歌は、とてもメロウな味わいに満ちている。

そう、メロウネス。今夜のライヴは、そんな柔らかい空気感から入っていった。これには開演前のBGMにトム・トム・クラブやMGMT、ブラーにスティーヴ・レイシーといったアーティストたちの曲が流れていたこともあるし、以後の序盤に「テラー・トワイライト」「PIZZASHAKE」と、肩の力を抜いて楽しめるポップなナンバーが続いたのもある。とくに後者ではベースの稲葉航大が「最高ですね、みなさん! いい感じだね!」とフロアに語りかけ、そこからのベースソロの前には「稲葉! 稲葉!」と自分へのコールをリクエスト。いつも飾ることのない彼のキャラクターは、このツアーでも多くのファンを魅了したことだろう。そして「KIDS」をはさみ、今度は「THE FAKE ESCAPE」でまたもメロウな味わいに。まず目の前に現われたのは、ちょっとソフトで、やっぱりフレンドリーなヘルシンキだった。

「めちゃくちゃいいツアーを廻ってきて、今日も最高の夜にしたいと思っています。たくさん踊って、身体揺らして、大声出したりして帰ってください。よろしくお願いします」

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橋本がそう語ってからの「Yellow」はライヴの分岐点となった。グルーヴィーな演奏の間にハードな展開が含まれていたり、その轟音が激しく炸裂する瞬間もあったり。そんな中でも橋本の高い声は美しく響き、後半にはミニー・リパートンの名曲「ラヴィン・ユー」を思い起こさせるスキャットも一瞬だけ聴かせた。

ここからバンドは怒涛のパフォーマンスに突入していった。ファンキーなビートとともに転がっていく「真っ暗なドーナッツ」、そのエンディングからラウドなリフが疾走する「Golden Morning」と、まさにロック・バンドのダイナミクスをブチかましてくれたのである。と思ったら曲をつなげるように、今度は「キリコ」! 熊谷太起のギターがサイケなうねりを爆発させ、その恍惚を岡田優佑(BROTHER SUN SISTER MOON)による4つ打ちのニュアンスを放つドラミングが加速させていく。ヘルシンキはこの数年のうちにタイのバンドたちと交流を続けたり、それ以前からもクルアンビンのようなサイケデリックな感覚を持つアーティストの音楽に傾倒したりしていて、この「キリコ」はそうした指向性が集約された作品のひとつだと言える。

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さらにこの曲のビートは「Happy Blue Monday」へと連なり、彼らが生み出すエクスタシーは色合いを少しずつ変えながらキープされていった。今までもこのように各曲をシームレスに演奏するアプローチはあったが、その有機性は本ツアーで最高値を記録したと思う。

ただ、そうしてサイケ沼にどっぷり浸るばかりじゃないのがこのバンドだ。次に披露されたのはポップなギター・ロックの「ミツビシ・マキアート」と「Skin」。ゆるやかに揺れていたフロアも、アップテンポの連続投下で一気に加熱! こうしてライヴの場をすぐさま一体感や熱気に染めてしまえるのもヘルシンキのサウンドの楽しさのひとつだ。

「めちゃ楽しんでます、ありがとうございます。いい感じですか?」

そしてその場がどんなに熱さを増しても、オーディエンスへの気配りを忘れない橋本薫という人のありよう。これもヘルシンキらしさだと思う。

「次の曲は(気持ちを)ほぐしながら、リラックスして聴いてもらえたら、多幸感をより感じてもらえるんじゃないかと思います」

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そうして始まった終盤は、まさに圧巻だった。リラックスするよう促されたのは、新作EP『月刊エスケープ』の最後の曲「My Alien」。どこまでも高く、どこまでも遠くへ行ってしまいそうなイメージを持つこのトリッピーなナンバーは、現在のヘルシンキの最もディープな部分を表現している。身も心もとろけそうで、最高。次の「収穫(りゃくだつ)のシーズン」も含め、彼らの音楽の多層的な快感度は今なお上昇傾向にある。

これに続いたのは「すべての君に捧げます」とのMCのあとに入った「たまに君のことを思い出してしまうよな」。<痛み>や<優しさ>を唄った歌詞ともども、ポップでダンサブルなヘルシンキがひょいと顔を出す。そして「また元気に会いましょう」と言ってからの本編ラストは「Be My Words」だった。やはりポップで、しかもまるで自分のすぐそばにいてくれるかのような、本当にナチュラルな歌。この最後のブロックは、近年の感覚をぎゅっと集約しつつ、現在のバンドの体温を示すようなパフォーマンスだった。見事だった。

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アンコールで再登場した3人は、この日誕生日を迎えた熊谷のことを祝う。熊谷本人が「『おめでとう』みたいなことも違う感じになってきたよね。33(歳)とかになってくると」と言うと、橋本は「というか、だんだん年を追うごとに、次の歳の心構えしちゃってない?」、稲葉は「それ、めっちゃわかる」と相槌を打つ。いい雰囲気だ。その後には稲葉が煽ったあとに、7月5日にビルボードライブ東京でのライブが決まったことが発表され、場内は大きく沸いた。あのアダルトな空間でヘルシンキ! 果たしてどんな場になるのだろうか。

アンコールはおなじみ「ロックンロール・プランクスター」、そして「古い曲を1曲やって帰ります」と告げての「シンセミア」。最後に再びメロウなヘルシンキへと戻り、この夜の宴は終わったのである。

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彼らが舞台を後にするのを見届け、お客さんたちと一緒にリキッドルームの帰りの階段を歩きながら、僕はヘルシンキというバンドについて考えた。元になったのは、先般3人に行ったインタビューでの話である。

お客さんを裏切りながらも共感してもらえるようなことをしたいと語った稲葉。やりたいことをどれもやっちゃえばいい、それが強みだと言った熊谷。まさに、そのどちらもが感じられたライヴだった。そして、一度まっさらにしたいモードにあるという橋本。その本意は理解しきれないが、彼らの場合、音楽的な方向性が同じままずっと行くことは、あまり考えられない。だけどEPを経てのこのツアーを観ても、先を読むことはできない。

ただ今夜、ひとつ気付いたのは……ヘンな結論だと感じられるかもしれないが、このバンドには優しさがあるということだ。その時々の興味で突っ走り、そのたびに変化を重ねてきた今までも、ヘルシンキは聴き手を放り出すような、ファンを置き去りにするようなことはしてこなかった。どんなにディープな世界に行っても、どんなに激しい音を奏でても、どこかでひとりひとりの目の前に戻ってきて、人なつこい笑顔を見せてくれる。そんなバンドなのだ。そこには、きっと優しさがある。彼らはこれからもその優しさを胸に携えていくのだろう。

ほんと、今のヘルシンキはどこにでも飛んでいけると思う。いや、飛ばなくたって、まったり歩いても、猛ダッシュでもいい。浮かんで行っても、泳いで行っても。その行き先が、海の底でも火星でも……アンデス山だって、砂漠だって。行ける。きっと。

これからのお楽しみを期待させてくれる彼らのことを、とても愛おしく思う。そんなファンの人たちは、きっとたくさんいるはずだ。

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【SETLIST】
01 引っ越し
02 テラー・トワイライト
03 PIZZASHAKE
04 KIDS
05 THE FAKE ESCAPE
06 Yellow
07 真っ暗なドーナッツ
08 Golden Morning
09 キリコ
10 Happy Blue Monday
11 ミツビシ・マキアート
12 Skin
13 My Alien
14 収穫(りゃくだつ)のシーズン
15 たまに君のことを思い出してしまうよな
16 Be My Words

encore
01 ロックンロール・プランクスター
02 シンセミア

SETLIST PLAYLIST URL
https://helsinkilambdaclub.lnk.to/escape250129

______________________________

【リリース情報】
タイトル:月刊エスケープ
発売日:2024年11月27日(水)
形態:5曲入りEP
仕様:12cmCD / 配信
価格:【CD】1,980円(税込) / 【ダウンロード】1,050円(税込) ※配信サービスによって異なります。
品番:HAMZ-026
レーベル:Hamsterdam Records / UK.PROJECT
CD取り扱い予定店舗:タワーレコード、FLAKE RECORDS、HOLIDAY! RECORDS、UKFC ONLINE SHOP、Amazon、ライブ会場物販他
https://helsinkilambdaclub.lnk.to/TheMonthlyEscape

収録曲:
01 THE FAKE ESCAPE
02 キリコ
03 Yellow
04 たまに君のことを思い出してしまうよな
05 My Alien

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【ビルボードライブ東京公演詳細】
Helsinki Lambda Club 12th Anniversary Special Live
Men on the Board~A Slow Burn Session~

<日程>2025年7月5日(土)
<会場>ビルボードライブ東京
<時間>1stステージ 開場14:00 開演15:00 / 2ndステージ 開場17:00 開演18:00
<チケット料金> ※飲食代金別
DXシートDuo 17,400円(ペア販売)
Duoシート 16,300円(ペア販売)
DXシートカウンター 8,700円
S指定席 7,600円
R指定席 6,500円
カジュアルシート 6,000円(1ドリンク付)

<チケット発売日>
2025年1月29日(水)21:30~2/5(水)23:59=HELL sinki FiRE CLUBメンバー限定先行(ぴあ)
2025年2月14日(金)正午12:00=Club BBL会員・法人会員先行(ビルボードライブ)
2025年2月21日(金)正午12:00=イープラス特別先行(e+)
2025年2月28日(金)正午12:00=ゲストメンバー・一般発売(ビルボードライブ)

*チケットはビルボードライブ公式HPおよびプレイガイド(e+・ぴあ)にてご購入いただけます。
*ビルボードライブ公式HPでチケットをご購入いただく際にはHH cross IDへの登録(無料)が必要となります。
*HH cross IDとは阪急阪神ホールディングスグループが提供する様々なサービスを、
ひとつのIDでご利用いただくためのIDです。(https://www.hhcross.hankyu-hanshin.jp/ 参照)

ビルボードライブ公式HP:https://www.billboard-live.com/

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新たなスタートラインに立ち、現実逃避できるほど自由に奏でる──Helsinki Lambda Club『月刊エスケープ』メンバー3人個別インタビュー
https://sensa.jp/interview/20250110-hlc.html

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