「ほんと不器用な奴らですみません!!」
ーーそう言って色んな人に詫びてまわりたいくらいだ。
現役大学生ならではの身も蓋もない蒼き葛藤と自問自答の末に〈素直な歌が歌いたい〉と叫ぶ衝撃的名曲「素直」を携えて、paioniaがシーンに登場したのが2012年3月のこと。しかし、そのシビれるような興奮を得た我々の期待をよそに彼らはすぐさま長い迷いの時期に突入してしまう。尾瀬松島(ドラム&コーラス)が就職の為にサポートメンバーになり、しばらくは別のドラマーを入れてライヴをすることもあったり、やっぱり正式メンバーに戻るというドタバタ劇があったり。いざ再び3人で前に進もうとするも、自信の無さから音楽的にも迷いが生じた時期もあったし、ライヴのMCでもここぞという時に伝えたいことが伝えられなくて観客をドン引きさせてしまったりと、もう全方位的に不器用さ全開。ファーストミニアルバムの『さようならパイオニア』というタイトルがシャレにならなくなっちまうんじゃないか!?という危惧すらあった。
しかし、不器用ながらにもがきながら少しずつ前に進んできた彼らだからこそ作れた8曲入りの新作が、この『rutsubo』なのである。
今作はpaioniaのスリーピース・バンドとしてのダイナミズムとロックバンドとしての誇りを感じさせるセッション・ナンバー「boredom」から幕を開ける。〈何が何だか分からない 僕たちは今日も本当のことを言うために/戦うはめになる〉という大きなテーマを軽快に鳴らす「paionia in Rutsubo」を経て、「ステージ」では大学を卒業してミュージシャンになったという夢のまっただ中にいながらもその現実をまざまざと吐き出した。そして以前からライヴで大切に演奏されてきた今のpaioniaの代表曲のひとつでもある「東京」も収録されている。「東京」というタイトルの名曲は数あれど、彼らは故郷の福島で東日本大震災を経験し、それまでの人生を覆されるような衝撃と失望とやるせなさを東京に戻った生活の中で書き上げた。かと思いきや〈君から生まれたい生まれたい〉と繰り返す「Natural Born Lover」みたいな無邪気でチャーミングな楽曲や、歌詞では毒づきながらも明るいコーラス・ワークで朗らかに仕上がった「女の子たち」あたりも新たな魅力のひとつ。
ちなみに楽曲を手がける高橋勇成(ギター&ボーカル)のやっかいなところは、周りの友人たちのノリに馴染めなくて孤独を感じながら、でもあんな奴らとはわかりあいたくもないと心のどこかで唾を吐き、だけどもやっぱり伝えたいことがあって音楽をやっているところだ。そんな彼の複雑さがよくあらわれているのが「11月」である。しかし、paioniaのすごいところは例えばこの曲で言うと、〈夜はすき間から入り込んで歌になる〉というフレーズで、高橋の個人的な失恋ソングである「歌」という枠を越え、不思議な魔法がかかったみたいにメロディが、サウンドが、どこまでも遠くへ私たちの気持ちを運んでいってしまうところだ。こういうところに、paioniaというバンドに触れる醍醐味がある。
そして、このアルバムは菅野岳大(ベース&ボーカル)による縦横無尽なプレイも聴きどころな、この3人で音が鳴らせること、それだけで個々がとてつもないエネルギーを発揮してしまっているインスト「tobacco」で幕を閉じる。
「不器用な奴らですみません!!」ーーそう言って色んな人に詫びながら自慢してまわりたいくらいだ。もがき続ける奴らにしか放てない輝きがここにあるじゃないか。
この『rutsubo』というアルバムの完成はそれを証明してくれるはずだし、その興奮を聴いてくれた全ての人と共有したい。私は心からそう願っている。
paionia、自信持って行けよ。
上野三樹