ハッピーエンドを経験したことがないのなら、アンハッピーエンドを高らかに鳴らせばいい。
そんな嘘のない言葉と思わず口ずさみたくなるようなメロディに憂鬱を吹き飛ばされ、今まで見ていた景色が変わるかのような魔法が、確かにここにある。
宇都宮で結成された4人組バンド、polly。まだ10代のメンバーもいるニューカマーだ。ファースト・ミニアルバム『青、時々、goodbye』から聴こえてくるのは、ドラマチックに物語を歌い上げるギターの音色と、その若さ溢れる躍動感に満ちたビート、さり気ない人懐こさを纏うポップなメロディ。
ふわふわとした足取りで現実という輪郭をボヤけさせるような浮遊感が心地良い「ナイトダイビング」や、細やかに降り注ぐ雨の情景に切ない想いを重ね合わせるような「雨の魔法が解けるまで」、引き裂かれるような別れを美しいギターのアルペジオに乗せた「hello goodbye」など、そのアレンジ力、表現力の豊かさにまずは驚かされる。そして聴き手は、ポップという強みの奥に潜む、曲を手がける越雲龍馬(Vo&G)の心に、そっと手を触れてしまうことになる。
話の最初に「コシクモっていう苗字、珍しいね」と言うと、「昔からこの名前がすごく嫌で。初対面で〈この人とは二度と会わないだろうな〉と思ったら、いつも嘘の名前を言ってました」な んて手強い答えをいきなり返してくるような彼だ。
小さい頃から打ち込んできた夢があった。その為にならどんなことにも耐えられるような気がしていた。しかし高校生になり挫折を味わい、自らの支えになっていたその夢を手放した。周りの人を疑ったり、自分の気持ちを上手く伝えられなかったり、どこにも居場所がないように感じたり、考えすぎて苦しくなったりするのは、そうした過去があるから。生きる意味さえ見いだせなくなっていた時、たまたま手にしたのは、いつか買ったまま部屋に飾っていたギター。自分の為に、紡いだ言葉たち。今でもライヴハウスや楽屋や打ち上げだって苦手で、ライヴ後にひとり、 階段で本を読んでいたりする、そんな不器用なバンドマンだ。
先行で無料配信される「Loneliness」はpollyの楽曲の中でも特に躍動感のあるフレッシュなサウンドと弾けるリズムに乗って、メロディが胸に直球で飛び込んでくるような愛らしさで届けられる。だけども歌詞は歌い出しから〈嫌いだよ キミのこと〉、といきなり先制パンチを食らわせるような内容なのだ。このカラクリがpollyらしさのひとつかも。「暗い歌詞で暗い演奏をしちゃうと押し付けがましいですよね、そういうのはあんまり好きじゃないんで。暗い内容をポップなメロディでキャッチーなものにするのは、自分にとっても救いみたいなものなんです。『Loneliness』は僕らが色んなメジャーのレコード会社の人から声をかけられていた時、ある人に〈お前らは流行りの四つ打ちの曲も作れないのか?〉と言われたことをきっかけに書いた曲。自分がお世話になっている人でも心を寄せている人でもないのに、何でそこまで言われなくちゃいけないんだろう?と思って。その人のことは今でも嫌いだしムカつくんですけど……でもお陰でこの曲が出来たので良かったです(笑)」(越雲)
他人をディスりながら登場する新人バンドっていうのも面白いが。こうして曲の中で牙を剥いたり溜息をついたりしながらも、pollyのバンドサウンドは何だか楽しげに鳴り響く。生き生きとした表情の4人がフロアを煽る。ハッピーエンドを経験したことがないのなら、アンハッピーエンドを高らかに鳴らせばいい。そんな嘘のない言葉と思わず口ずさみたくなるようなメロディに憂鬱を吹き飛ばされ、今まで見ていた景色が変わるかのような魔法が、確かにここにある。[テキスト:上野三樹]