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【LIVE REPORT】
the dadadadys × Helsinki Lambda Club × Group2 “TAIKIBANSeeeee.”
2022年12月23日@東京キネマ倶楽部
文:真貝聡
写真:マスダレンゾ
出演バンド全組のライブが終わり、2階席から身を乗り出して1階のフロアを見たとき、20代前半の女の子が嬉々とした声で「ヤバい! ヤバかったー!」とジャンプしながら声を出していた。もう少し前屈みになって端の方にも目を向けると、やっぱり嬉しそうに「あー……楽しかった」と声を漏らしている人がいて、そしてフロア後方にも。もう、それがすべて。一人ひとりの興奮のダムが決壊して、みんなが嬉しそうにしてる。今から僕が書いていくのは、そんな一夜の楽しい出来事の話だーー。
2021年11月から12月にかけて、Helsinki Lambda Clubとtetoによる初のスプリットツアー『TAIKIBANSeeeee.』が神奈川・川崎CLUB CITTA’他、全国三か所で開催された。そして1年後の2022年12月23日、2回目となる今回は、東京・キネマ倶楽部にてthe dadadadys×Group2×Helsinki Lambda Clubの3マンが組まれた。
僕が会場に到着したのは開場の1時間前。ステージではthe dadadadysがリハーサルをしていた。楽屋裏へ行くとthe dadadadysとHelsinki Lambda Clubが所属する UK.PROJECTでレコードの制作をしている軽部氏がいた。軽く談笑した後、「最近the dadadadysがすごくいい感じにまとまってきたんですよ」と教えてくれた。しばらくして、リハーサルを終えたthe dadadadysの小池貞利(Vo/Gt)が楽屋裏にやってきたので、軽部氏の言葉をそのまま伝えてみると「そうそう! もうね(the dadadadysは)無敵」と、一点の曇りもない表情でさらっと答えた。
開場時間になり、お客さんがどんどんフロアに集まってきた。2階からその様子を見ていると、今度はthe dadadadys のマネージャーが声をかけてくれた。「今年は1月26日に、tetoのサポートドラムだったyucco(Dr)が正式メンバーになったことを発表しまして。それから両A面配信シングル『ROSSOMAN!』をリリースして、4月に元ギリシャラブの山岡錬(Gt)が加入して、ワンマンツアーと対バンツアーをやって。先日は東名阪でワンマンツアーをやりました。その間もずっとレコーディングをしていましたね」と今年の活動を教えてくれた。「サポートギターの(ヨウヘイ)ギマに関しては、最近まで沖縄に住んでいたのもあってライブに出れない時は(熊谷)太起(Gt)が入ってくれて。上半期はほぼ彼が弾いてくれていました」。なぜ、今回2度目の『TAIKIBANSeeeee.』を開催することになったのかと言うと、熊谷がこの日を持ってthe dadadadysのサポートメンバーを卒業するからだった。「せっかくなら盛大に祝おう」ということで、熊谷が所属しているHelsinki Lambda Clubだけでなく、Group2も招いてイベントを開催する運びとなった。
そんなお祝いの日のトップバッターを務めたのは、the dadadadys。まずは小池が開口一番、今日にかける想いを発した。「今日、the dadadadys史上初めて6人でライブをやります。太起が今日でサポートは最後。これ、目に焼き付けてほしいんじゃなくて、ただのお遊びです。でも、そのお遊びがみんなにとっての最高最低のライブになれば良いなと思ってます」。初球は豪速球の「超々超絶絶頂絶好最高潮」でプレイボール。yuccoのストロングなドラムに、5人の轟音が重なり、けたたましい音楽を浴びせた。観客を余韻に浸らせる間もなく「ここに血も、汗も、快楽も、憂鬱も残していく!」と言って2球目は「ROSSOMAN」をぶん投げた。ロックンロールのギターリフが始まれば、フロアから一斉に腕が上がる。いや、1曲目から上がっていたけど、もっとだ。小池がしゃがむと熊谷、ギマ、山岡、佐藤健一郎 (Ba)が同時にステージ前へ出る。本番前、小池は言った「俺は新しく(バンドを)始めると決めた時から、戦隊ものみたいなバンドをやりたかったんすよ」。
3曲目「しぇけなべいべー」を歌い終えて、小池は清々しい顔を見せた。「いやぁ、『TAIKIBANSeeeee.』をやれて良かったよ。Group2は初めましてなんだけど、無理くり誘ったら快く受けていただいて。Helsinkiにも有難いことに出てもらえて。こんな最高最低を更新できそうな夜を作れて、幸せでいっぱいです」。
手と手を合わせて、両手の人差し指を伸ばすと小池は言った。「もはやthe dadadadysはロックニンジャでござる!」。中盤で披露した新曲「にんにんにんじゃ」は、これまで小池が作ってきた楽曲からすれば明かに変化球なんだけど、このバンドの音楽性の幅を拡張しているし、なにより様になっている。それは間違いなくメンバーの確かな演奏力と表現力があるからこそ、小池のソングライティングがここまで自由に解き放たれたのだろう。
「俺はリアルが、現実が、大切だと思っていて。ひたすら現実に突き進んできた。いやぁ……夢とか見てる場合じゃないよ。現実を行かなきゃと思っていたんだけど、それがある日突然、何らかの理由でダメになる時があり。ああ、向き合い過ぎてダメになるんだ。こんな簡単に崩れるなら、向き合わない方が良かったなと思ったけど、そういう性分だからずっと向き合ってきた。なんかさ、世の中には目先のことだけで楽しんでる人が腐るほどいるのに、俺は現実と向き合ってコケて、それって馬鹿みたいだなと思うんだ。だけど……」。ステージの床を見つめながら、小池はいろんなことを思い出すように話す。そして顔を上げた。「向き合うこと自体は絶対に悪くない、と信じたいです。過去を肯定したいし、無かったことにも結局できないので。ただ、そういう時に俺って弱い人間だなと改めて思うわけです……。リアルに向き合うよりはリアリティ。俺が影響を受けたリアルだと思っていたものは、リアルに限りなく近いリアリティだったと最近ようやく気づいて。それだったら、俺は向き合いながらも、向き合う以上に、もっと目の前の“リアルなリアリティ”を楽しんだ方が良いなと思いました」。そう言って演奏した新曲「らぶりありてぃ」は圧巻だった。ずば抜けて良かったのだ。<こっちの世界は平和そうだ>から始まり<こっち見んなって誰も寄せ付けない日々があって 歌詞ばっか作って肩肘張って><つまんねえ未来ならお断り><俺は嘘を嘘と楽しめるし>とリアルの中でリアリティを見つけた歌詞……いや、全編ラップだからリリックか。それに浮遊感のある演奏が、より現実と現実味の境界線を曖昧な色に塗っている。
「酔っ払って太起が俺に言ったんです。『the dadadadysの最後はこの曲で終わりにしたいんだよ』って。そんな曲で締めたいと思います」。気づけば最後の登板となった。9回裏、振りかぶって投げたのは「Pain Pain Pain」だ。ラストは熊谷がマイクを握り、小池と一緒にサビを熱唱。アウトロで小池が熊谷に近づいてキス。喧騒と狂騒の中で魅せた美しいシーンだった。
続いてはオルタナティヴ・シティ・サイケバンドのGroup2が登場。今年4月に「Ordinary」、6月に「Syndrome」、8月に「Utopia」、10月には近藤大彗(No Buses)のソロプロジェクト・Cwondo名義でリミックスを担当した「Utopia(Cwondo Remix)」をリリースし、コンスタントに楽曲を発表してきた。11月に東京で1年半ぶりとなる自主企画「的(TEKI)」を開催し、12月には元SHE IS SUMMER・MICOによるGIRLS FIGHT CLUBの新曲「Lofi Sweet Christmas」を共作して、トピックの多い1年だったように思う。
まずはメンバー4人が踊り場から現れて、肩を組んで横一列に並んでお辞儀。もちろん1組目の演奏を終えたばかりの熊谷もいる。階段を降りて、各々の定位置に移動すると、ステージ中央に満月のようなライトが灯り「ゴールド」から始まった。踊れるギターリフから、吸い込まれるようにGroup2の世界に引き込まれていく。月から飛び立ち、まるで宇宙遊泳をしているような、そんな心地よさがあった。
続く「ソラリス」で歌いながら笑顔を浮かべる山口風花(Vo/Syn)。それを見て呼応するように、熊谷、上田真平(Ba)、石井優樹(Dr)からも笑みが溢れる。――2014年、石井が主催するイベントでバンド演奏するために結成したのがGroup2。当時、熊谷はコピーバンドの経験しかなかったという。それから8年が経ち、メンバー4人ともバンドを続けられた理由を「このメンバーでいる時の空気が心地よかった」と話している。打算的ではなくて、純粋に一緒にいて楽しい。それってバンドのあるべき姿なのかもしれない。「Internet」を演奏して、上田が熊谷に「疲れてませんか?」と聞くと「まあ、疲れてるよね。最初のバンドが一番疲れるからね(笑)」と熊谷。地元の友達と話すような、穏やかな表情をしているメンバー。そして、ここでサプライズゲストを紹介することに。ニコニコしながらも、どこか緊張した面持ちのHelsinki Lambda Club・稲葉航大(Ba)が登場。しかも腕にはベースではなく、サックスを抱えている。稲葉は「緊張するよ! 一番緊張してる」と珍しくソワソワした様子。5人編成で最初に披露したのは「オリエント」。「ゴールド」でもそうだったが、Group2のライブを観ていると宇宙を想起してしまう。この曲もシティポップで心地よさもありながら、惑星旅行しているような壮観な画が脳裏に浮かぶ。そこに稲葉のサックスが加わることで、優雅さと妖艶さが加わっている。でも、彼らの音楽は聴く者を幻想的な世界に連れていくばかりではない。5曲目になり<ああ なんて簡単な繰り返しライフ 単順なループみたいな いつも同じ風景>という「めまい」のフレーズが場内に響く。人生規模で見たらそんなことないけど、日常という物差しで“毎日”を目盛りで測れば、何も起こらない時間の方が多い。昨日と同じような時間が流れている今日。「めまい」は人生のトピックに上がらない何気ない日をすくい上げて、優しく包み込んでいるように聴こえた。
7曲目「Wonder」でまたもや景色は一変。戦争映画『フルメタルジャケット』をモチーフに作ったこの曲は、彼らにしては珍しい対社会についての歌だ。しかも曲調はファンク&サイケなサウンドなのも斬新で、歌詞の強度を増している。この日のセットリストは、終盤の流れも面白かった。ベースが同じフレーズを終始弾きつつ、パートごとに表情を変える「理由」からの、スペイシーな音にミルクを飲んでいた赤子をテーマに歌った「MILK」。ラストの「Utopia」はボコーダーを使ったヴォーカル、ニューウェーブとフュージョンを感じるギター、シンセベース、直線的なドラムなど80年代っぽさを醸しながら、現代のエッセンスも入ったサウンド。4人の空気感も、実験的かつ新しい音楽性も堪能できるステージだった。
トリを飾ったのは、Helsinki Lambda Club。マネージャーいわく「今年はバンドに関わってくれる人が増えたりして、チームの結束力が強くなったと思います。ライブが安定して、どんな場面でもしっかりと魅せれるようになりました」とのこと。Group2のライブが終わり、スタッフがセットチェンジをしていると稲葉と橋本薫(Vo/Gt)が姿を見せて、マイクチェックと楽器の確認をしていた。おもむろに稲葉が聴き馴染みのあるフレーズを弾く。あれ? いや、違うかと思っていたら、橋本がマイクに顔を近づけた<僕の心をあなたは奪い去った 俺は空洞 でかい空洞>。やっぱり、ゆらゆら帝国の「空洞です」だ。かなりたっぷりと歌ったところで、少し笑って「じゃあ、後ほどお会いしましょう」と袖へ去っていった。
そして数分後SEが流れる中、改めてメンバーがステージに登場。夕焼け色のスポットライトが4人を照らし、彼らの登場を心待ちにしていた観客を前に<こんな綺麗な日差しは 彼女一人の目にあまるわ>と「I’m as real as a donut」で幕を開けた。いつだってHelsinkiの音楽は、その時の情景とピッタリハマる。
そして橋本、稲葉、熊谷、吉岡紘希(Dr)がお互いに顔を見合わせて「いっせーの」で音を鳴らした時、4人ともすごく嬉しそうな顔をしていた。橋本が腕をまっすぐ伸ばし「ミツビシ・マキアート」を宣言すると、会場から大きな拍手が起こる。そこから稲葉と橋本のツインボーカル「ロックンロール・プランクスター」。この曲は何度もライブで聴いたことがあるが、いつも以上に演奏することが楽しい様が滲み出ていて、ただただ幸せな空気が漂っている。前半がスケートボードですいすいと心地よくストリートを泳いでいるとしたら、4曲目「何とかしなくちゃ」では、バイクにまたがりにエンジンをかけて爆走していく。風を切りながら猛スピードで景色が変わっていく感じ、それがなんとも気持ちいい。
稲葉が「ちょっと疲れてます?」と聞くと「疲れているというかね、遠足の後みたいな感じ」と熊谷。その会話に橋本も加わり「今日(熊谷は)3ステージやってるんですよ……すごいですよね」とフロアに言葉を投げると、観客から優しい拍手が起きた。そのまま橋本が話す。「今年(の熊谷)はthe dadadadysでサポートをやっていて、人に見られる快感を覚えたのか、エゴが肥大化してきまして。『俺の祭りをやってくださいよ!』と言って、今日がやってきました(笑)。……本当はね、詳しくは聞いてないけど、(小池)さだちゃんが太起に対して感謝の気持ちがあって。最後に楽しいことをしたいっていうことで組んでくれたのが、このイベント。だから本当にただただ楽しく年を越そうぜって感じなんで、よろしくお願いします」。MCで熊谷は本日3本目のライブをして、そろそろ昇天するんじゃないかという話になり「もしもイキそうになったら合図ちょうだい」と橋本。そんな笑いを交えたやりとりの後、tetoの「あのトワイライト」を原曲のままではなく、Helsinkiのエッセンスを加えてカヴァーした。
Helsinkiはこの日が年内最後のライブということで、1年の感謝を伝えた後に「収穫(りゃくだつ)のシーズン」を披露。ダブとレゲエを感じる跳ねるようなリズムが、とても心地いい。アウトロで橋本、熊谷、稲葉がお互いに歩み寄り、小さく輪になってセッションを始める。初めて彼らのライブを観たのが2015年の東京・新代田FEVER。そこから度々ステージを観に行っているけど、やっぱり今が一番演奏をしていて楽しくてしょうがない空気が伝わってくる。
いよいよラストナンバーとなった。「Skin」を召喚すると、それまで2時間半近く2階席で座ってステージを観ていた関係者がむくっと立ち上がり、フロアからは大勢の観客がステージに腕を伸ばす。最後に相応しい大フィナーレで大勢の拍手に包まれながら9曲を完走した。
そのまま観客が帰るはずもなく、すぐにアンコールへ。まずステージに現れたのは山口。そして橋本、稲葉も登場。口火を切ったのは橋本で「えーっと、ギターの熊谷太起がやりたいことがあると言って……」。橋本が今日のアンコールためにどんな曲をやるのかを提案して、その案で決まりかけたところ、熊谷が「すみません。ちょっとやりたいことがありまして」と20行以上のLINEを送ってきたそうだ。「実は熱い男なんですよね。そんな彼の願いを叶えてあげようかなと。最後に1曲やらせていただきます!」と言って、演奏したのはtetoの「高層ビルと人工衛星」。踊り場のカーテンが揺れて、そこから飛び出したのはサングラス姿の熊谷。勢いよく現れて、アンプの上に乗ってシャウト混じりで歌い上げる。何かが憑依しているかのように暴れ狂い、ステージ上を自由に動き回り、フロアの海にダイブ。もはや自制心の糸を全部ぶった斬ったような感じ。そこへ小池も登場し、一緒になって熱唱。熊谷は小池の背中に乗っかり、叫ぶ、歌う、叫ぶ。演奏が終わりを迎えるタイミングで、小池がマイクを握り「今日は最低と最高を更新する、そんな1日になった! センキュー!」と声を飛ばした。メンバーが袖へはけて行った後、1人残った熊谷が「もう終わりです! 今日はありがとうございました」と盛大な拍手に包まれながら締めた。
終演後、誰かしらいるだろうと楽屋裏へ行くと、ライブを終えたばかりの橋本がいた。今年について振り返ってもらうと「シンプルに楽しく音楽をやれた年でしたね。この楽しさを覚えつつ、来年は締めるところは締めて、この楽しい雰囲気を伝えられるような感じでハイブリットにやっていきたいですね。バンドの調子もすごくいい感じなんですよ。来年で10周年ですし、今まで以上にいろんなチャレンジをやっていきたいです」と話した。そしてライブの感想を伝えると「ハハハ、嬉しいです。今日は“太起の日”というのもあって、遊ぶような感じで楽しんで演奏できましたね」と笑顔で答えてくれた。出演者も観客も、みんなが笑顔になった「TAIKIBANSeeeee.」はこうして幕を閉じた。