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【UKP OFFICIAL LIVE REPORT】 兵庫慎司が見たsyrup16g、国際フォーラム ホールA 『OFFICIAL LIVE REPORTというより、個人的感想文』
[photo:Yuki Kawamoto]
2013年5月8日に東京・NHKホールで唐突に行われた五十嵐隆のライヴ(という名義だったが、ドラムは中畑大樹でベースはキタダマキだったし、syrup16gの既発曲もいっぱいやったので、実質的にはsyrup16gのライヴだったと言っていいと思う)『生還』から1年と4ヵ月ちょっと。2014年6月27日の、再始動とニュー・アルバムのリリースと、そのリリース・ツアー「syrup16g Hurt リリース記念ツアー『再発』」を東名阪で行うことを発表してから3ヵ月。
9月19日(金)名古屋DIAMOND HALL、22日(月)東京国際フォーラムホールA、25日(木)大阪・なんばHatch、そのツアーは本当に行われた。3本とも行われた。ちゃんとした時間と曲数、行われた。そんなこと強調して書くな、って話だが、「新しい曲作った!」「ライヴやった!」「作品が出た!」「ていうかちゃんと生きてた!」「立った!」「歩いた!」「しゃべった!」「なんか食べた!」「お蕎麦だった!(“ex.人間”より)」というようなことに、いちいち喜んでしまったり、いちいち安堵させられてしまったりする、それがここ数年の五十嵐隆という人であったことは、ファンならご存知だと思う。
後半はちょっと言いすぎですが。というか、そもそも「ここ数年の五十嵐隆」を知りませんが。「ここ1年くらい」より前は、一切人前に出なかった人なので。
ただし。僕が観た、その3本のツアーのうちの1本=9月22日(月)東京国際フォーラムホールAは、今はもうどうやら、そんなふうにこのバンドに向き合う必要はないらしい、ということを証明するようなステージだった。
[photo:kazumichi kokei]
ニュー・アルバム『Hurt』の1曲目である、重い重いほぼルート弾きのギターリフで始まってメロディとギターがユニゾンするAメロに突入する、今このバンドが再び動き出すことになった必然を示すような曲である“Share the light”でスタートし、「神の声」と「塾から帰るガキ」が共存する混沌と激情に満ち満ちたキラー・チューン“空をなくす”でアンコールがしめくくられた全20曲。『Hurt』収録曲全11曲のうち、“(You will)never dance tonight”と“メビウスゲート”を除く9曲をプレイ。それ以外は、“神のカルマ”“生活”“ex.人間”“リアル”“パープルムカデ”などの、これまでのライヴでも定番になってきた過去の代表曲たちだった。
以下セットリスト。※が『Hurt』収録曲です。
01.Share the light ※
02.神のカルマ
03.Stop brain ※
04.ゆびきりをしたのは ※
05.君待ち
06.生活
07.哀しき Shoegaze ※
08.生きているよりマシさ ※
09.ex.人間
10.ニセモノ
11.ハピネス
12.理想的なスピードで ※
13.宇宙遊泳 ※
14.落堕
15.リアル
EN 1
16.イカれた HOLIDAYS ※
17.希望
18.旅立ちの歌 ※
EN 2
19.パープルムカデ
20.空をなくす
[photo:kazumichi kokei]
照明は相変わらず暗く、逆スポット(ステージ側から客席に向けて放たれるやつ)だらけ。特に1曲目“Share the light”は赤いライト数本すべてが常に3人のいる以外の方向に向いていて、姿はほぼ見えず。2曲目“神のカルマ”から、やや見えるようになった。
ステージ後方にヴィジョンがあり、曲によって映像が使われた。高速を走るクルマの中から撮ったと思しきブレブレのコマ送りみたいな映像とか、夜の街の映像とか、水中っぽい映像とか。ただし、ステージの模様を収録するカメラが数台入っていたのに、メンバーの姿は一切映らず、というところも相変わらずというか、あまりにもsyrupらしい。まあ、日本武道館でもヴィジョンを使わなかったバンドだしなあ。
11曲目“ハピネス”、12曲目“理想的なスピードで”、そして前述の18曲目“旅立ちの歌”は、五十嵐はアコースティック・ギターを弾きながら座って歌った。なお、彼は“旅立ちの歌”の「泣きたくなるから 反応してくれよ 必死に言葉 紡いで 君とまた会えるのを 待ってる」という歌詞を「君とまた会えるのを 待ってた」と変えて歌った。
1年ちょっと前のNHKホールの時と比較すると、段違いに1曲目から声がしっかり出ている五十嵐のヴォーカル。超独特なコードの使い方といい、リフやフレージングといい、エフェクトのかけ方といい、明らかに「ギターを弾きながら歌う人」が演奏可能な範囲を超えている五十嵐のギター(これは昔からそうですが。他の「ギター弾きながら歌う人」と聴き比べると、五十嵐のやっていることは本来「ギターだけ弾いている人」のそれであることがよくわかります。だから一時期サポート・ギターを入れたこともあったのだと思います)。
ただコード音を8分音符で弾いているだけですさまじいグルーヴを生み出す、そして時にベースの役割を超えて主旋律も担う(という曲、このバンドには数多くある)キタダマキのベース。
そして、syrup16g解散後にプレイヤーとしてすさまじい成長を遂げ(現にあちこちのサポートでひっぱりだこになっているのはご存知の通り)、昨年5月のNHKホールの段階で「今のこの男がこのバンドで叩くとこんなにすごいことになるのか!」ということを見せつけた中畑大樹のドラム、この日も絶好調。完全にバンドをひっぱり、グルーヴの中心になっている。昔、ライヴ中に彼のプレイにキレた五十嵐が、いきなり後ろを向いて弾いていたギターを下ろし、ドラムセットにガシャーンと投げつけたのを目撃したことがあるが(確か広島ナミキジャンクションだった)、今の中畑だったらバスドラを頭上まで持ち上げてドガシャーン!と投げ返すと思います。というか、五十嵐がそんなふうになることがまずないだろうが、今の彼のドラムに。
あと、曲中のブレイクの時やサビ前の時などに「ウワーッ!!」とか「ギャーッ!!」とか叫ぶ習性のある生き物。それが中畑大樹だが、この日はその回数、過去最高に多かったのではないか。“生活”や“ex.人間”など、トータルで7,8回。本編最後の“リアル”では2回も叫んでいた。私が数えられたのはそれくらいでしたが、もっと叫んでいたかもしれません。
とにかく、歌とギターとベースとドラム、演奏そのもの、すべてがすばらしかった。だから、すべての曲がすばらしかった。それがうれしかった。
[photo:kazumichi kokei]
そして、そのうれしさは、「syrup16gが戻ってきた!」とか「復活した!」とか「健在だった!」とか、そういう類いのものではなかったのだ。
ということを意識せずに観ていたんだけど、途中で気づいた。最初に曲と曲の間が空いたのは3曲目と4曲目の間だったんだけど、そういう時に客席から「お帰りー!」とか「待ってたよー!」とか「五十嵐―!」とかいう声が飛ぶたびに、ちょっと違和感を感じてしまうのだ、自分が。
2008年3月1日の日本武道館での解散ライヴで、曲の間が空くたびに飛んでいた「ありがとうー!」という声には、ウルウルしたのに。昨年5月8日東京・NHKホール五十嵐隆「生還」ライヴの時の「お帰りー!」にも、ウルウルまではしないものの「うん、そうだよね、わかるわかる」と納得したのに。
にもかかわらず、今日は「声かけるのとかやめようよ」と思ってしまうのだ。曲やってる間はすげえ集中して聴いてて、終わるとドーッと拍手して、次の曲が始まるまでお通夜みたいにシーンとなって待ってる、それがsyrup16gのライヴでしょ。あなたも俺もずっとそうやって観てたでしょ。というふうに感じてしまうのである。なぜ前はそう感じなかったのか。解散ライヴの時も、1年前の「生還」ライヴの時も、通常のsyrup16gではなかったからだ。
つまり、このツアーのsyrup16gは、「復活」とか「再生」(と本人たちは言っているが)ではなく、通常のsyrup16gだったのだ。あたりまえに現在進行形だったのだ。
まるで、2008年から今日まで、ずっとsyrup16gをやっていたみたいだった。でもこの バンドだけじゃなくて、あちこちで腕やセンスを磨いてきたので、ソングライターとしてもプレイヤーとしても、8年前や6年前や3年前にはできなかったことができるようになっている分、進化している、そういうライヴだったのだ。
国際フォーラムホールAをびっしり埋めた5000人強のファンが全員そう思ったかどうかはわからないが、少なくとも僕はそう感じた。そして、そのことに、本当にびっくりした。4曲目と5曲目の間のMCで五十嵐は、「ようこそ、来てくれましてありがとう。ただいま、めちゃめちゃ緊張してますけど、なんとか最後までやりきれるようがんばります」などと言っていたが、そんな危うさなど全然感じなかった(ということは、昔は観ていてそんな危うさを感じたライヴもあった、ということでもありますが)。
とはいえ、あくまでこれは僕個人が思ったことなので、他の方は違うと思います。声をかけたい人はどんどんかければいいし、じっと観ていたい人はひたすらじっと観ていればいいと思います。という自由さが、今のsyrup16gにはある。ということにも、驚いてます。
[photo:kazumichi kokei]
ニュー・アルバム『Hurt』には、これまでどおりの王道syrup16gな曲も入っているけど、これまでだったら決して書かなかったような曲も入っている。アレンジや曲調の面でも、歌詞の面でもそうだ。一度目のアンコールの最後に、「あんまり好きじゃない曲、やります」という前置きをして、アコースティック・ギターを抱えて歌った『Hurt』のラスト・チューン“旅立ちの歌”など、そのもっともわかりやすい例だと思う。
五十嵐がそう言うのもわかる。メジャー・コードだし、歌詞もストレートだし、全体にほのかにポジティヴだし。ただし、今の五十嵐に対して「もっとこういう曲を書きなよ」とかディレクションしている人は、いないと思う。つまり彼は、誰にもなんにも言われていないのに、自分の意志でそういう曲を書いた、ということだ。「応援してるだけさ 共に生きていたいだけなんだよ」「はっきり断言する 人生楽しくない だから一瞬だって繋がってたいんだ」と歌い、最後に「勇気を使いたいんだろ」とリフレインする“ゆびきりをしたのは”も、同じ文脈にある曲だと思う。
解散までの数年間、syrup16gのライヴで必ず演奏されていた、そして昨年の五十嵐隆「生還」ライヴでも披露された、彼らの全キャリアを代表する超名曲“reborn”と“I.N.M.”の2曲を、彼らはこのツアーのセットリストからは外した。別にやりたくなかったわけじゃないけど、やらなくても大丈夫だと思ったから、そうしたんじゃないかと思う。それだけ、ニュー・アルバム『Hurt』と、今のsyrup16gのライヴに、確信を持っているのではないかと思う。現にこっちも観ていて「”reborn”まだかな」とか思わなかった。ライヴが全部終わってから「あ、そういえばやんなかった」と気づいた。というくらい、この日のライヴはすばらしかったし、何度聴いても『Hurt』は彼らのキャリアの中でも有数のすばらしいアルバムだ、ということだ。
たとえば“生きているよりマシさ”の「死んでいる方がマシさ 生きているよりマシさ」というフレーズ、すごいインパクトだけど、「死んだほうがマシさ」ではなく「死んでいる方がマシさ」であるところに五十嵐の才能を改めて感じた。というようなキラー・フレーズ、syrup16gの楽曲には数限りなくあるが、『Hurt』にはそれ、特に多いように思う。前述の“旅立ちの歌”や“ゆびきりをしたのは”にもそういう必殺の一行があるし、 “理想的なスピードで”の「心と向き合うなんて無謀さ」や「安心だけはしない 誰に何言われても」もそうだし。
ただ、『Hurt』がこれほどまでにすばらしくても、このツアーがsyrup16gが現在進行形であることを証明する内容だったとしても、これ以降彼らが、2年に1枚アルバムを出して、ツアーも毎年やって、フェスにも出て……みたいな、パーマネントな活動をするバンドになる、という可能性は低いと思う。というか、そうならなくてもいいと思っている、僕は。アルバムは4年に1枚くらい、リリース・ツアーは東名阪3本だけ、みたいな状態でも御の字だと思っています、正直なところ。それでも充分に「syrup16gは存続している、活動している」と言っていい、と思うので。
昨年の五十嵐隆のNHKホールも、このたびのsyrup16gのツアー3本も、なぜ即完したのか。なぜみんな『Hurt』を買って聴いたのか。なぜファンのおそらくほぼ全員が、syrup16gのことを忘れなかったのか。syrup16gに代わるものなどいないからだ。五十嵐隆のようなメロディと言葉を紡げるソングライターは、ほかに存在しないからだ。そして、中畑大樹のドラムとキタダマキのベースはほかでも聴けるし観れるが(で、ほかで観てもすばらしいが)、五十嵐隆の歌はここ、syrup16gでしか聴けないからだ。
つまり、それがどんなにかけがえのないことなのかを、五十嵐は『Hurt』とこのツアーで、我々に思い知らせてしまった、という話なわけです。次のリリースやツアーがいつなのかわからないが、その時、セールスや動員が今回よりも増えることはあっても減ることは絶対にないと思う。
だからって、あんまり安心してもらっても困るけど。「安心だけはしない」って歌っているくらいがちょうどいい気もするけど。
余談。キタダマキはsyrup16g参加以前から凄腕で知られるベーシストだったわけで、そして解散以降中畑大樹もあちこちでひっぱりだこのセッション・ドラマーになったわけで、つまりふたりともミュージシャンとしてはsyrup16gが動いてなくても別に困らない、自分を表現する場所がなくて一番困るのは五十嵐隆、という今のこの状態、なんかとてもよいというか、結果オーライというか、「という現状なわけだけどどうする? 五十嵐くん」と言いたくなるというか、ある意味理想的な気がします。[text:兵庫慎司 / title photo:Yuki Kawamoto]
[photo:kazumichi kokei]
【syrup16g 「syrup16g Hurt リリース記念ツアー『再発』」 PHOTO GALLERY】
- 2014.09.19(FRI) @名古屋 DIAMOND HALL -
[photo:Yuki Kawamoto]
- 2014.09.25(THU) @大阪 なんばHatch -
[photo:Yuki Kawamoto]