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【UKP OFFICIAL INTERVIEW】LOST IN TIME 海北大輔「DOORS」インタビュー

前作「LIFE IS WONDER」から1年半ぶりの新作、通算9枚目となるオリジナル・フルアルバム「DOORS(ドアーズ)」を6月3日(水)にリリースするLOST IN TIME。これまで彼らが生み出してきた作品とは明らかに異なる感覚、雰囲気を持った今作。その正体の一端を掴めればと海北大輔(Vo.Ba)に話を訊いた。[取材・文:濱田和人(UKP)]


―:新作「DOORS」聴かせていただきました。今までのロストのアルバムのどれとも似てないなあと思ったんですけど。

海北:そうだねえ。似てないねえ。

―:アルバムが持ってる雰囲気がかなり独特で、またそれぞれの曲も独特というか…。

海北:曲順もいいでしょう? すごく自信を持ってるんだよね。

―:新作が出るということで、リスナーの方の期待値も高まってると思うんですが、それを振り切る内容になっていると感じました。このアルバムが出ることによって、これまでのアルバムの聴こえ方も変わってしまうような、そんな作用をもってる作品のように思えたんですけどいかがですか?

海北:そうかもしれないね。いち早く友達や、仲間のバンドマンには聴いてもらったりしたんだけど、各地で評判だったりリアクションもらったりっていうのが嬉しくて。自分自身も今作を作りながらっていうよりは、出来上がってきたものが揃ってくる過程でこれまでの作品との違いをだんだん実感してきたっていうか…。アルバムを紹介する文章の中でも書いたんだけど、今までの作品はなんていうのかな…こう…、作品ごとに一つ「鍵」があって、その鍵で一曲一曲の共通の扉が開く。それがこれまでのLOST IN TIMEのアルバムの作り方だったんだけど、今回はもっと曲単体にフォーカスされていて、一曲一曲違う鍵じゃないと開かない扉が一つのアルバムに落とし込まれてるっていう手応えが初めてなんじゃないかっていうくらいあります。それが自分にとってもすごくフレッシュな体験、新鮮な気持ちで作れましたね。

―:「DOORS」っていう作品をどういうものにしたいっていうヴィジョンはあったんですか? 狙い通りのものができたのか、それとも「結果的にこうなった」というものができたのか。

海北:どっちかと言えば後者の方が正しいのかな。狙った部分もあるんだけど、一曲一曲に向き合って作るっていうプロセス自体はそんなに変えてやってるつもりはそんなにはなくて。ただレコーディングまでの過程が違うっていうか、僕が曲を作りたいっていうモードが早い時期からあって、それから長くその状態が続いたことってあんまりなかったんです。今回初めてだったかもしてない。だから季節によってとか、時間帯によってとか、その時自分が置かれてる環境だったりとかで、選ぶ言葉とか見えてくる景色の角度っていうのが違うし、その都度その都度書き出すもの、あるいはストックしてるもの、ここ最近ずっと続けてる旅して弾き語るってことも作用し始めてきたのかなっていうのは正直あるんだよね。一人で全国周ってる時って、楽しいんだけどさびしいっていうか。やっぱりバンドで来たいよなってことをより強く思いながら周ることが多くて…。行く先々でも、弾き語りの感想と一緒にバンドでも来て欲しいって言ってもらえることも嬉しいことだし。「俺もそのつもりなんだよ」って思ってるからね(笑)。もっともっとたくさん聴いてもらえるように、人を集められるような種を蒔いていかないとバンドでいくことが出来ないっていう現状がロストにはあるし。それを悲観するのは簡単だけど、そうじゃなくて「今はそういう状況」っていうだけだから。それをいかに楽しむかっていう事だと思う。去年作った「新曲だらけの海北盤」に収録されてて、今回のアルバムに入っているのが2曲かな。でも他の曲がボツって事じゃなくて、タイミングが今じゃないなっていう。寝かすともうちょっとよくなるんじゃないかっていう思いもあって。アルバムが作り終わった時点でストックがゼロじゃないことって初めてなの。

―:そうなんですね。

海北:バンドのアイディアとしてのストックは作るたび空になるまでやるけど、その基になる種みたいなものは空になってないから。むしろもっといいものになりそうだなって思えるものがいっぱいある状態でリリースを待てるっていうのは、今までとは決定的に違うかも。

―:今作で9枚目のアルバムじゃないですか。

海北:うん。

―:キャリアも枚数も重ねていく上で、メンバーひとりひとりの活動も活発になってきている側面もあって、そこで今バンドのモチベーションってどこに向かってるのかなあと思ったんですよね。

海北:まず敢えて言うなら「安心しないため」っていうことなんですよ。LOST IN TIMEってバンドはさ、いよいよ家みたいなバンドになってきたって事を前のインタビューでも話したじゃじゃない?[【UKP OFFICIAL INTERVIEW】LOST INE TIME 海北大輔 『home』インタビュー] その家っていうものにメンバーもファンの人達もスタッフもみんな、そこに根差している家族なわけだ。それぞれの生活がある中でやっぱりそれを守りたいって思うわけですよ。でもその現状維持って俺の中では守ってるうちに入らなくて、常に色んなものって変わっていくものだから、現状維持って言いながら、保守点検みたいな。じゃあ補強が現状維持かって言ったらそうでもないっていう。家になったからっていって大丈夫かって言ったらそういう事じゃないっていうか。みんなが安心してLOST IN TIMEのライブに来られるように、もう1ステップ2ステップってレベルアップしていきたい、今はそういう気持ちが強いかな。

―:はい。

海北:私生活にも結構その影響って出てて、やっぱり現状でだらだらしてると本当にどんどん歳取っちゃうし。今年35になることに自分でも若干ビビってるんだよね(笑)。このくらいの年齢って子供の頃はもっと大人に思えてたんだけどなあって。
例えば自分に子供がいたりとかさ、実家の手伝いしながら音楽やってたりとかしてたらいいなあって思ってたけど、結局実際そうはならなかったなあとかさ。

―:色んな道の枝分かれみたいなものはその年その年にあったと思うんですけど、その道を決めたのは自分の選択で、それがあっての「今」ですものね。

海北:そうだねえ。だから後悔してるわけじゃ決してないんだよね。今までやってきたことに胸も張れるし。でもどっちかっていうと今までやってきたことをまた同じようにやってもしょうがないっていうかさ。また次のドアを開けていかないと。みんなにもっといい景色見せたいもん。それはLOST IN TIMEを愛してくれてる人に対してもそうだし、源ちゃんや三井君と3人でもっともっといろんな世界を知りたいし。自分のミュージシャンとしてのポテンシャルも今また面白いことになってきてるから、2人に負けない俺でもいたいし。

―:「DOORS」を聴いてもそれは伝わってきました。「LOST IN TIME=家」という考え方が確立した上で、この家をベースにじゃあ次はどこに行こうか、そこに留まるんじゃなくて、ここからまた始めるんだっていう宣誓にも聞こえたんですよね。

海北:それすごい大事なことだったんだよ。次の作品をどういうものにしようかってことはまだ何かが見えてるわけでもないんだけど(笑)。

―:だからロスト次の作品作るときどうすんだろって(笑)。

海北:(笑)。録り終わった瞬間にエンジニアさんにポロッと言われたの「ロストの次回作、楽しみだね」って。俺正直ショックで、すげーいいアルバム出来たなって思ってたのにもう次なの!?って。

―:おいていかないでよ!みたいな?

海北:うん。今出来たばっかりだよね?このアルバム?って(笑)。自分でもさ「DOORS」を聴く時間を設けて何回も聴くんだけど、俺もどんどんそういう気持ちになっていくんだよ。このアルバムが出た後のLOST IN TIMEってどうなっていくんだろうなって。自分でもすげえ楽しみだね。でもそのためには漠然としてちゃ今はいけない気がしててさ。源ちゃんや三井君がって事ではなくて自分がってことなんだけど。ソングライティングしてる自分、歌を歌ってるフロントマンとしての自分がブレちゃいけないなって。かといって気負っても良くないから…。気負うっていうものと背負うっていうものは違うっていうかさ。

―:ちゃんと背負う、引き受けるってことに向き合ったからこそ今回のアルバムが出来たと思うんですよね。

海北:そうだね。力の加減とかさもういい加減わかってきたからさ、自分の歌、ボーカリストの自分っていうものをいよいよ自分自身でようやく愛せるようになってきたんだよね。

―:今まではそうではなかったと?

海北:最初は自分の声が大嫌いだったからさ。LOST IN TIMEやるまでボーカルなんてまともにやったことなかったし。でさベーシストとして世に出たかったのに、気付いたらボーカリストとして評価してもらえるようになって、そこに対してのギャップやジレンマみたいなものもあったなあ。だからLOST IN TIMEのスタートってちょっとこじれた部分からだったんだよね。それがやっとなんとか自分の年齢や置かれてる環境のひとつひとつをすごく愛せてるかな。そんな気がする。だからこの「DOORS」ってアルバムは「こうじゃなきゃダメだ」だとか思わなかったし。一曲一曲に対してはすごい向き合ったけど、その曲たちを並べた時に矛盾してても「まあいいか」って。それぞれにそれぞれの正しさがあるからいいじゃんって。みんなそういう世の中を生きてるでしょ?って言う感覚を一枚のアルバムに落とし込めたのも初めてだし。

―:最後の曲が終わるまでずっとドキドキしてたんですよ。耳が離せなかったです。作品が上に立ってなかったというか、チャレンジの連続というか。

海北:着地しないよね(笑)。

―:このアルバムを出すことでロストってまた新しい推進力みたいなものを掴むと思うんですよ。

海北:そうなるといいな。

―:でもそのパワーをちゃんとバンドの中で作り出したっていうことが、とても価値のあることだなと。

海北:面白いよねえ。面白いアルバムになったよって素直に言えるかな、そこは。それを好きか嫌いかっていうのはきっとそれぞれにあると思うから、それを俺が口をはさむ部分じゃないからさ。けど、この作品が出来たことで、過去のLOST IN TIMEってものをより大好きになったし。

―:今までのロストのアルバムってアルバムごとの世界観だったり、統一感みたいなものをとても大切にしてきたんだと思うんです。ただ今回はその整合性を敢えて度外視して、より自由になったんだと思うんです。

海北:そうだねえ。整合性のある作品の良さっていうものももちろんあるし、きっと今後も作っていくと思うんですよ。でもそうじゃない作品を作ってみて思うことは「整合性がない」っていう整合性っていうのかな。

―:(笑)。

海北:例えば、何も失うことのない日々は何かを失うっていうことを失ってるってわけで、言い方を変えるとそれは失ってることになってる。何かを失うって事は無くならないわけで、逆に自分には全部あるよって状況は全部ないって状況を知らないとそれに気が付けないってことだから。何かを失くすってことは自分が足りてるって事を噛みしめるいい材料だったりもする。なんかそういう感覚が妙にあるんだよね。しょうもないお酒の飲み方をして記憶を飛ばしながらも、てへへっていいながらいいドラムをたたく源ちゃんとか、その源ちゃんに付き合いながらもさ、本当にスケジュールどんどん忙しくなっていってる中、ロストにかける比率っていうのは変えずにやってくれてる三井君とさ、やっぱりバンドがしたい、バンドマンでいたいなって思うんだよね。で、もっとやっていけるって思うからさ。もうそうとしか言いようがないなあ。みんなが大事にしてくれたLOST IN TIMEってバンドはどこに出しても恥ずかしくないバンドになったよって胸張って言えるようになった。

―:本当に今いいモードなんですね。

海北:うん。さっきこじらせたスタートって言ったけどさ、LOST IN TIMEってバンドがいよいよ理想に近づきつつあるのかもしれない。俺がやりたかったことだとかさ、仲間たちと奏でていきたかった音だったりとか。欲を言えばもっと音楽シーンのど真ん中でこういう事言いたかったしやりたかったなって思う。でもそれは置かれてる状況だったり、巡り合わせだったりもするからさ。でもそこを諦めてたら音楽なんてやってないわけで。

―:先程の年齢の話もありますしね。

海北:本当ビビるよね(笑)。でも変わらないことにもビビってる。35になってもこんな感じなのかなあって。

―:自身の内面とかそういう部分ですか?

海北:内面も外側も。肉体的には絶対衰えていくわけじゃん(笑)。

―:(笑)。そうですね。

海北:精神的な部分は置いといてさ。そうなった時に同じ事をやり続けることをどこまでやれるのかなって考える。ビビるっていうのはさ恐怖とはまた違って、なんて言うか武者震い的なさ。ドラゴンボールでいうとこの悟空の「オラわくわくすっぞ」みたいなさ(笑)。

―:未知のものに対する好奇心みたいな。

海北:そうそう。多分自分自身の事が好きになり始めてて、一種のナルシズムかもしれないけど。自分を愛するってことの面白さだったり、それこそ好奇なもの、好奇心をくすぐってくれるものだったり。やっぱね周りを見渡してみてもドキドキしてる人は…いいよ! でさ、みんなきっともっとドキドキしたいんだよね。俺はそういう意味で言ったら幸せかも。ついに自分にドキドキし始めてたっていう(笑)。

―:「DOORS」ってまさにそういうアルバムですよね。

海北:そうなったね。必然なのか偶発なのかどっちかはわからないけど、キラキラしたアルバムになったよ。とっても。

―:フレッシュさが詰まってますよね。

海北:多分次のアルバム作るときはそのキラキラしたものを心持ちとして、マインドとして色んな成分をつめこんだものにして、また「オラわくわくすっぞ」状態になりたいよね(笑)。

―:(笑)。

海北:この場って「DOORS」のことを話する場だけど、その次の話が出来て今すごいワクワクしてる。とにかくいいアルバム作ったから聴いてよって思う。ツアーもゆっくり回るし。今年一年はそこに標準を合わせてしっかりやりたいな。源ちゃんも三井君も俺も、今あるワクワクした気持ちを次どう表現しようかっていうことを、もう一回それぞれで咀嚼する時間は必要だから。それはツアーをやりながら色んなとこに行ったり、色んな人に出会ったり、色んな景色観たりすることで、吸収していけたらいいなって思う。そしたらまたレコーディングしたくなってると思う。

―:今のロストってインプットとアウトプットのバランスもいいんでしょうね。

海北:そうなのかもね。出しっぱなし入れっぱなしも良くないからね。どっちもやるっていう。その循環は今いい形で出来てるなあって思う。でもそれがいつまでも続くわけがないって事も知ってる。知ってるからこそ、その次をちゃんと見てないとその「次」がいつまでたっても来ないよっていう風に今は思っていて、それは焦りとも違うんだけどね。

―:時間は経ちますもんねえ。

海北:本当だよ(笑)。

―:身に染みましたね(笑)。

海北:でもその「時間経っちゃうよ」「歳取っちゃうよ」って言葉を聞いてネガティブなイメージを思い描くこともないんだよ、って言いたい。諸行無常をも楽しむ、面白がるっていうかね。だってさ楽しんでも、何もしなくても無常なんだもん。だからこそ楽しもうよ、「今を」って。明日の事を気にしないとかって事じゃなくて、謳歌しようぜって。まだまだやりたいこと、チャレンジしたいことって山積みで、まだまだ発展途上だから、これからの僕らを見ててほしいな。でもこれって「DOORS」ってアルバムを出せたから思えることかもしれないなあ。これからのLOST IN TIMEはもっと良いよって伝えたいよ。

 


2015年6月3日リリース
LOST IN TIME 9th AL 「DOORS」 商品情報
http://ukproject.com/item/7725/


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